からっぽのトランク
里花の旦那である邦夫は第一印象がとても良い男だった。

落語とかやってた?だの。
カラオケ得意でしょ?だの。言われる。

実際の邦夫は落語はおろかカラオケも唄わない。顔立ちは穏やかで優しそうな雰囲気に
里花も惹かれた。

初めて邦夫の車の助手席に乗った時。

そこにはヤングコミックが数冊重ねられていた。

漫画好きなんだ。。位しか思わなかった。

趣味はパチンコと焚き火だと邦夫は言った。

「アウトドアが好きなんだ。将来の夢は
 丸太小屋を自分で建てる事。」

グラフィックデザイン科の専門学校を出た里花は正直アウトドアは苦手だった。

どちらかと言えば家の中でデザイン画を描いている方がいい。



たぶん。。今思えば私は邦夫の何も知らなかったのだ。

私はまたずり落ちてきたブラジャーの左肩のひもを密かに直した。


邦夫は仕事が続かなかった。

転職するたびに家計は減り続けた。

そして邦夫はそこの会社の悪口を帰宅してはいい続けた。

上司がバカだ。

同僚がなってない。


私は1ヶ月だまって聞いた。そして一ヶ月目の夜に邦夫に向かってはっきり言った。


「一ヶ月間。会社の悪口聞き続けたけど。

 邦夫さん。かっこわるい。」
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