からっぽのトランク
一人の部屋で一人で出かけ一人で眠る。

ガランとした部屋はとても広く感じた。

広いまま4年が過ぎていった。

街を歩いてポケットティシュを1つ貰った。


『ステキな出会いを!』


出会い系のティシュだった。人前で使うに使えない。

バッグに押し込めて忘れていたのに帰宅したら底から顔を出していた。


こんな所で出会いなんて。

こんな所に登録する男なんて。

訳もなく怒りがこみ上げたら来た。

女を性の道具としかみてない奴らばかりなんだろうな。


なのに私は電話を掛けた。


どんな奴でも文句を言ってやりたかった。

あんたは最低なんだと知らしめてやりたかった。



夜中の2時近くだと言うのにその男は軽快に話し出した。

「いま仕事終わった所なんだ。」

男は屈託の無い声でそう告げた。

「何人もこうやって会ってるんでしょ?

 最低。」

どうせ知らない男だ。私は好き勝手に言った。

「そんな事はないけど。会ったのは3人かな。」

3人とセックスしたんだ。最低。

「女の事。やれるだけってオモッテルんでしょ?」

男は少し戸惑ったみたいだったが直ぐに口を

開いた。

「いや。真面目な出会いを求めてる。。

 いや。諦めてるのかも知れないな。」


「だから。こんな所で遊ぶんだ!最低。」

随分だなぁ。。と少し男は笑った。

そして身の上話しを始めた。

奥さんが居て女の子が産まれたのに何故か
奥さんは頑なに入籍を拒んだ。

子供が3才になると新しい男を作り妊娠して
とっとと入籍し別れた。

奥さんには自分名義でカードを散々使われ残ったのは明細書だけだと言う言葉話しや

サイトには夜の仕事で疲れて帰ってきて話し相手が欲しい時に話すだとか。


私は疑いなが聞いていた。

同情を引こうとしてるの?

それって不幸じゃない?

なんて想いながら言葉では「ふーん。」とか

「へぇー。」とか言っていた。

ガランとした部屋に受話器から男の声と私の声が重なる。

全て嘘かも知れない。

顔の見えない素性もわからない男と私は1時間近くも話していた。

それがなぜか悔しくてやるせなかった。


「出会い系に電話してくる女なんて最低だと
おもってるんでしょ?」


「いいや。話せてよかった。ありがとう。」

男は私に礼を言った。


ありがとう。。


ありがとう。なんて!何年ぶりに聞いた。


明日。晴れるって。会ってみる?心で言ったはずなのに。

私は言葉に出していた。
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