確かに恋だった。
どうして。
どうして、こうなった。
どうして、彼がこんな目に合わねばならないのだ。
どうして、彼女は泣いている。
どうして、彼は動かない。
どうして、私じゃないんだ。



誰に怒りをぶつければ良いのか分からなかった。
彼の尊い命を無惨にも奪ったのは私を救ってくれた大好きな彼の優しさだった。
トラックに轢かれかけていた子供を助けようとした彼は子供の命と引き換えに永久の眠りについてしまった。
私を残して。
愛した人を残して。



大勢の人が彼の突然の死を嘆いた。
優しい彼は多くの人間から愛されていた。
まるで、眠っているかのような彼にすがりつき彼女は泣いていた。
美しい顔をくしゃくしゃにし、産まれて間もない赤子のように彼女は泣いていた。
顔だけ知っている彼の友人であろう人間達が同じように泣いていた。
私には出来ない。
それすら出来ないことだった。



私はその空間に入ることすら許されない。
確かに彼は私を愛してくれていたし、その場にいるほとんどの人間がそれを知っているはずだ。
それでも、私には彼女と同じように愛しい人にすがりつき泣くことすら許されないのだ。
彼が真っ暗闇の箱に閉じ込められるのを私は止めることすら出来ない。
触れることすら出来ない。



どうして、彼が死ななくてはならなかったのだろう。
どうして、私ではなかったのだろう。
どうして、私ではいけなかったのだろう。
どうして、私は違うのだろう。
それでも、これは。
これだけは真実なのだ。
私は彼を心から愛していた。
確かにこれは恋だったのだ。
これだけは揺るぎない真実なのだ。













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