それを愛だというのなら


思い出したように話す彼の言葉の前半は完璧棒読みで、嘘くさい。


「あら、そう。でも顔色もいいし、彼女を抱えて運んでくれたんだから、きっともう元気よ。教室に戻りなさい」


にこりと笑顔で対応する女性教諭。


「えー……俺も彼女の隣で少し寝かせてくれないかなー……」

「ダメ。真面目に授業を受けてきなさい」

「へーい」


諦めた表情で、彼はくるりとこちらに背を向けた。


「あ……」


せめて運んでくれたお礼を言いたかったのに、痛みが言葉を奪う。

彼はちらりとこちらを見たけど、何も言わずに戸を閉めて行ってしまった。

ああ……彼は何ていう名前だったっけ。

見たことがあるような気がするから同じ学年だろうけど、自分自身入退院を繰り返しているから、全員の名前を覚えていないのが残念。

天使のような罪のない綺麗な顔をした男の子。

あなたは、誰なの?



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