それを愛だというのなら


「そう言えば、劇のキャストがピンチって知ってた?」


順番待ちで並んでいるとき、フミがそんなことを言う。


「劇って?」

「やだ瑞穂。文化祭の劇のことに決まってるじゃない」


文化祭の劇。そういえば、六月初めに学年全体で役割を決めたっけ。

うちの学校では毎年、文化祭で二年生が演劇を披露するのが習わしになっている。

基本、文化部は部活の出し物が忙しいから、その劇は文化部以外の人間で作り上げることになる。

たしか、私は小道具だったはず。

文化祭は九月で、早くから活動するのはキャストと演出くらいだと思っていたんだけど。


「どっかのカップルがやるんじゃなかった? 主役」


たしか、演目は『眠れる森の美女』。


「それがさ、別れちゃったらしいんだよね。演出が大慌てで他のキャストを探しているらしいんだけど、ねえ~」

「そこ、私語しない!」


先生に怒られて、私たちは口をつぐんだ。


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