それを愛だというのなら


「帰って来たくなかったー」


そう口ごたえする私の車いすを操作し、エレベーターで病棟へ向かう看護師さん。

エレベーターの扉が開くと、途端にアルコール消毒をしたような、病院独特の強い匂いがした。

うう、本当にやだ。この、“帰ってきた感”。

私が最終的に帰るのはここなんて、絶対にやだ。


「じゃあ、私はいるものを取ってくるから。じゃあ、よろしくお願いします」


何度も受け取ったことがある入院書類の入った薄いグリーンの封筒を持ち、お母さんが病室を出ていく。

大部屋に入れられた私はそのまま絶食&安静で、点滴をされたまま眠ることとなった。

ピンクのカーテンで仕切られた向こうからは、ちょうど夕食時らしく、良い匂いが漂ってきた。

病院食なんて一般の人が食べたら絶対に美味しくないだろうけど、何も食べられない私からしたらかなりうらやましい。これは拷問だ。


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