それを愛だというのなら
夕方になり、暗くなる前に帰ろうと言う健斗と、家までの道をゆっくりと歩く。
バイクを引く健斗は相当重くてしんどいだろうに、泣き言は言わなかった。
やがて見慣れた街並みの屋根の上に、日が沈んでいくのが見える。
自転車がなければ、手をつなぎたい。
このまま健斗と手を繋いで、死神くんにも見つからないような、世界の果てまで逃げてしまいたい。
けれど、刻一刻とタイムリミットが近づいているのを、肌で感じた。
もうすぐで家につくというとき、道の先の景色がゆらりと揺れる。
暑さのせいで陽炎でも見えたのかと思いきや、その歪んだ空間に、黒い影が現れた。
最初はカブトムシくらいの大きさだった影は、一瞬で人の形に広がっていく。
「ここでいいよ」
不吉な予感が、胸をざわざわとかき乱す。
もう来たんだ。もっとゆっくりでもいいのに。
本当に、仕事熱心だね。死神くん。
前方に現れた死神くんは、ゆっくりとこちらに近づく。
「どうして? 家の前まで送っていくよ」
何も見えない健斗は、あと少しという中途半端なところで別れを告げる私を不思議がる。