それを愛だというのなら
『瑞穂』
空気なんて読まない死神くんは、平気で私に話しかけてくる。
彼は私と健斗の間に入り、こう言った。
『約束通り、契約を破棄しにきた』
息が止まりそうになる。
わかっていた、覚悟していたとはいえ、やはりこの健康な体でなくなるのは辛い。
待って。健斗の目の前でなくてもいいでしょう。
そう心で語りかけてみるけれど、死神くんは何も聞こえていないような顔で、黒いマントの中からペンとボードを取りだす。
『終業式までという約束だ。それから、もうずいぶん待ってやった』
そんな。
『広瀬瑞穂。お前と私の契約を、今破棄する』
死神くんは思い切り、ボードの上の紙に大きなバツ印をうつ。
それは、私が彼と交わした契約書。
あっと思う間もなく、まるで全身から空気が抜けていくように、金色の光が皮膚から空へと昇っていく。
これはきっと、健康体になったときに使った、私の生命力だ。
燃え上がる炎のような形を描くそれに目を奪われていると、不意に膝から力が抜けた。