それを愛だというのなら
「俺がいたら、お母さんが気を遣うだろ」
そう言っていた。
健斗は参考書やノートを持ってきてくれ、夏期講習でもらったプリントを私に解かせた。
「元気になったら受験しなきゃいけないもんな。無理しすぎちゃダメだけど」
比較的得意な文系科目はおいておいて、苦手な理系科目を丁寧に教えてくれる健斗は、まるで家庭教師。
お医者さんもいいけど、教師も向いているんじゃない? と言ったら、「絶対やだ。そんなストレス多そうな職業」と言って舌を出された。
医者だって、病院や科によっては夜勤もあるだろうし、ストレス多そうだけどな。そう思ったけど、言わないでおいた。
やがて二週間後、やっとほとんどの炎症がおさまり、今まで通り家で薬と栄養剤を摂取する方法で様子を見てもいい状態になったと主治医から告げられた。
退院の日、健斗は病院に来なかった。
お父さんとお母さんが迎えに来ることに決まっていたからだ。
荷物を持ったお父さんは、のしのしと数歩先を歩いていた。