それを愛だというのなら
「し、失礼しま~す」
おずおずと両手を彼のお腹の前に回す。
そしてぎゅっとしがみつくようにすると、彼はエンジンをかけた。震動が全身を揺さぶる。
「行くよ」
そう水沢くんが言うと、バイクが発車する。
そのスピード感に、途端に恐怖を感じる。
速い。自転車より、全然速い。
振り落とされないように、余計に力を入れて、水沢くんの背中にしがみつく。
そのしなやかな背中は、制汗剤かなにかわからないけど、なんだかいい匂いがした。
風が髪をすくっていく。
ビュンビュンと、周りの景色が線になって後ろに飛んでいく。
やっとスピードに慣れて、目もどこの景色か認識できるようになったころには、既に家のすぐ近くにさしかかっていた。
「お疲れ。大丈夫だった?」
家の近くでバイクを停めた水沢くんは、私のヘルメットを外しながらそう聞く。
「うん! 最初は怖かったけど、最後の方は楽しかった!」
「そっか。じゃあ、夏休みは家の人の許可が出れば、これで遠出できるかもね」