王様の命令は?
「ペンキもう足りねーよこれ。買いに行くけどお金とかどうすればいいー?」
近くで聞こえた声に私は顔を上げた。
「あ、それ久河さんに聞こうよ。ねぇねぇ、久河さーー…」
うちのクラスの女子の文化祭実行委員を呼ぼうとした私を遮るように、目の前に立たれて見下ろされる。
「あー、いいよ。匠に聞いた方が早い」
「はっ…?」
その足でスタスタと向かう先はあの男のところ。
呆然とそれを見ているとトントンと肩を叩かれた。
「どうかしたの?」
久河さんが小さく首を傾げている。
初めてこうやって向き合って話すかもしれない。
きちんと揃えられた前髪、きゅっと結ばれた低めの位置の1つ結び。
制服だってきっちり校則通りで真面目な模範生徒。
眼鏡の奥、綺麗な黒い瞳を見つめているとニコリと小さく微笑む女の子。
久河紗智さん。