笑って。僕の大好きなひと。

失うことがつらいのは、それだけ幸せをもらったからだ。

大切で、かけがえのない、愛する君だからだ。

この愛しさも、喜びも、悲しみも、痛みも、君と出逢えたから知ったものなんだ。


「タマちゃん。笑って」


ノアの手がわたしの頬をなでる。ほとんど体温を失ったはずのそれは、なぜだか温かく感じた。

ああ、そうだったのか……と、すべてが唐突に腑に落ちた。

やっとわかった。七日前に消えるはずだったノアの命が、最後の奇跡を起こした理由。


すべては、わたしのためだったんだ。


「ありがとう……ノア」


彼の手を包みこみ、自分の体温を伝えるように頬に押し当てる。


「ノアは……わたしのために、がんばってくれていたんだねっ……」


わたしが大丈夫なように。光を見つけていけるように。

それだけを君は願い、最後の力をふりしぼって、わたしのそばにいてくれたんだね。


「もう、がんばらなくていいよ」


その言葉を口にしたとたん、身を引きちぎるような痛みが走った。

だけど、それはまぎれもなくわたしの本心で、わたしが言わなきゃいけない言葉だった。
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