笑って。僕の大好きなひと。
ぺろりとおにぎりをたいらげる姿。
一緒に森を歩いた宝探し。
わたしを引っ張ってくれた、温かい手。
「ノア……ねえ、ノア」
いくら呼びかけても反応はない。ほんの数時間前までは息をしていたのに、もうしない。
お願い、誰か。ノアの魂をもう一度戻して。あの愛しい温もりに、もう一度触れさせてください――。
***
ノアの埋葬を終えたわたしは、彼が使っていた部屋に戻った。
ベッドのシーツに残されたくぼみ。ためしに触れてみたけれど、ノアの体温はすっかり消えてしまっている。
わたしはベッドの傍らに座った。それからしばらく、ぼんやりとたたずんでいた。
そういえば、今日は二十七日。東京に帰る予定にしていた日だ。
いつまでもここにいるわけにはいかない。帰らなくちゃ。そう思うのに、指一本動かす気力も湧いてこない。
現実感がなくて、頭にモヤがかかったみたいだ。死というものの意味を理解することを、脳が拒否している。