笑って。僕の大好きなひと。

だって、ノアはここにいた。さっきまで、この手に触れられた。

現実逃避というオブラートに包まれた思考。けれど、ふとした拍子にオブラートがはがれ、涙が滝のように流れだす。


――『もう、がんばらなくていいよ』


本心から言った言葉だったのに、今になって少し後悔してしまう。

大丈夫なんかじゃない。わたし、やっぱり大丈夫なんかじゃないよ。ノアがいなくなった世界で、どうすればいいの……。


「おい」


勝也さんが部屋に入って来た。わたしは濡れた頬もそのままに、彼をふり向いた。


「コートを着ろ」

「……え?」

「森に行くぞ」


  ***


どうして急に、森に行くなんて言い出すんだろう。

白い息を吐き出しながら、ずんずんと歩を進める勝也さんに尋ねることもできず、わたしは彼と一緒に森の入り口までやって来た。
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