笑って。僕の大好きなひと。
「あの……入っても大丈夫なんでしょうか」
フェンスの前で今さら躊躇し、勝也さんに確認する。先日トモくんが遭難して騒ぎになったばかりだと思うと、さすがに気が引けてしまうから。
「大丈夫だ」
勝也さんはきっぱりと言い切って、先にフェンスを越えた。
たしかに、勝也さんもいるなら大丈夫だろう。わたしはうなずき、網目に足をかけてよじ登った。鉄の冷たさが手袋ごしに、手のひらに伝わる。
そういえばノアは、わたしがフェンスを越えるとき、転ばないよう腕を広げて受け止めようとしてくれたっけ。
――『別に大丈夫だよ、転ばないから』
――『タマちゃんが言っても説得力ないよ』
――『失礼な』
他愛ない、けれど二度とできないやりとりを思い出して、心が沈んでいく。
記憶に足をとられたわたしは、しばらく呆然としていたらしい。
何も言わずにこちらを見上げる勝也さんに気づき、あわててフェンスを飛び降りた。