笑って。僕の大好きなひと。
あんなにも苦手で逃げたかったのに。
今、目の前にいる両親は、わたしと同じひとりの人間だ。同じように悩んだり、立ち止まったりする、愛しい人たちだ。
そんな当たり前のことを、わたしは今、初めて心から感じられた。
「ごめんな、環……。子どもの方から言われて、やっと気づくなんてな。本当は僕たち親が、伝えなきゃいけない言葉だったのに」
「ううん……ううん、お父さん」
鼻水が出てきてしかたない。泣くつもりなんてなかったのに、ふたりの涙が伝染したんだ。
だって、わたしはふたりの子どもだから。
「環……お母さんね、自分の親とうまくいかなかった後悔を、娘のあなたにぶつけていたんだと思う。本当は、環がこうして元気でいてくれるだけで、幸せだったのにね」
ごめん。そうつぶやいたお母さんのまつ毛が揺れた。
「お母さん……」
「でもね。やっぱりわたしは環の親だから。教えなくちゃいけないことは、たとえ嫌がられても、首根っこつかんででも、あなたに教えていく。その気持ちは、間違いなんかじゃないと思ってるのよ」
「うん……っ、ありがとう」
今ならわかる。きっとわたしたち、お互いにねじれた世界を作っていたね。
大切な相手だからこそ、よけい頑なになっていたんだ。