笑って。僕の大好きなひと。

そういえば、誕生日には自殺する人が増えるって、どこかの国の研究者が言ってたっけ。

わたしの死体が見つかったら、これも自殺だと思われるのかな。いや、誰も思わないか。自殺する勇気なんかないし、するほどの深刻な動機もない。

そう、死にたかったわけじゃないの。ただ、逃げ出したかっただけ。

でももうダメみたいだ。全身が沈むように重くて、意識が遠ざかっていく――。


   ***



……まぶたの裏に、白い光が差しこんだ。


ここは、天国? ふわふわしたものが、わたしの体を包みこんでいる。ひどく心地がいい。

そうか、天国ってこんなに温かいんだ。

懐かしささえ覚えるような安堵感に、わたしは身をゆだねて――


「ん?」


あれ? おかしいぞ。

死んだにしては、体の感覚がリアルすぎる。全身が筋肉痛だし、転んで打ち付けた背中が痛い。

わたしはゆっくりと、まぶたを持ち上げた。まぶしい光に何度かまばたきをして、視界の焦点を合わせる。


「ここ、は……」

どこだ?

ベージュ色の壁が、目の前にある。少し視線を動かすと、こげ茶の木枠に囲まれた窓。まったく見覚えのない部屋。そして。


「これ、は……」

誰だ?

壁の方を向いて寝ているわたしの、背中にハッキリと感じる体温は。
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