笑って。僕の大好きなひと。

さっきからやたら耳につく、キャッキャッと弾む美那子の声。翼の方も高揚感がおさえきれない様子で、いつもより少し早口だ。

……これから七日間、間近であれを見なきゃいけないのか。

バイトをキャンセルする勇気がなかった自分を、ますます恨めしく感じてしまう。


「顔色、悪いけど大丈夫?」


となりに座る雄大くんが、ふいに控えめな声で尋ねてきた。
“へのへのもへじ”を意識していたはずが、つい顔色に出ていたようだ。


「あ、うん。ちょっと寝不足で」


とっさにごまかすと、「俺も」と雄大くんがボソリ。

口数が少なく、表情も乏しい彼とは、どうやっても会話が弾みそうにない。別に無理に話したいとも思わないけど、となりで黙りっぱなしも気まずいものだ。


「雄大くんって何人家族?」


とりあえず質問を投げてみる。もうちょっとマシな話題はないもんか、と自分でも思ったけど、共通項がなさすぎるのだから仕方ない。


「うちは四人」

「兄弟いるの?」

「うん。小さい妹が」

「そっかー。いいなあ。わたし、ひとりっ子だもん」

「そうなんだ」

「うん」

「……N県は、初めて?」


お、会話が続いた。無口男子なりに気を遣ってくれてるんだろうか。なんか、すんません。
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