いつもの場所
「うん、大学の論文で優秀賞とった生徒に毎年交換留学の権利が得られるみたいで…」



大人になってからの一年はあっという間だが、若かりし頃のこの一年が永遠に思えるのも仕方ない。



「そうか…それは友達としては名誉なことだし喜ばしいことだよね…でも…ネム…いいの?」



「なおちんは決めたことは曲げないし、仕方ないよ。」



「確かに一年ってすっごく長いよ。でもさ二人とも7年も一緒にいるんだよ、別れるとか…必要あるの?」



「なおちんは…異国の地できっと自分でいっぱいいっぱいになるのを分かってる。だから自分のためにも将来のためにも向こうでの生活を精一杯…」



ネムは必死に平然を装いながら涙をこらえた。



ネムのいわんとすることは伝わった。要するにエチオピアでの生活に専念するために、そしてきっと寂しい思いをさせるネムのために直樹は別れを切り出したんだろう。



かれこれ10年近く友人の二人、凛々子はだいたい察しがついた。直樹は将来の夢のために努力は惜しまないタイプだし、ネムは直樹のためなら身を引くこともまた愛と考えているに違いない。



マグカップのコーヒーがなくなりかけたころ、ネムが再び口を開いた。



「でもね、約束はできないけどもしまた帰国して二人の気持ちが変わらなかったら…また一緒にいよう、今度は一緒に住もう…って」



「そっか。うん、きっとそうなる!うん、待とう!二人とも大人の決断だなぁ。私はまだおこちゃますぎて理解はなかなかできないけど。」と、凛々子は明るく励ました。



窓の外は太陽が昇ろうとしていたが、その薄暗さが寂しさを助長しているようだった。
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