いつもの場所
12. 決断



直樹の帰国前日まで返事はなかった。



この数週間、ネムは平然を装おうと必死だった。



若林に悟られまいと。



初めは若林を傷つけた後ろめたさから申し訳ないという気持ちであったが、今ではそういった不安要素が若林のメンタルを削ってしまい、その復旧作業の煩わしさから本心を隠すようになった。



しかしなんだかんだ若林との関係も悪くはなかった。



情熱的に愛しているというよりは、おだやかで安心できる場所。



直樹とのような激しいぶつかり合いも傷付け合いもなく。



だが…忘れもしない2月28日、ネムはどうしようもなく直樹に会いたかった。



ネムは…



決めた。



とにかく次に何が起こるかはどうだっていい。



一生一緒にいられなくてもいい。



『今すぐ直樹に会いたい。』



帰国時間が分からないのはどうだっていい。1日中空港で待つことなんてこの1年に比べたら屁でもない。



若林のことなんて1mm足りとも考えなかった。
 


< 35 / 92 >

この作品をシェア

pagetop