いつもの場所
一方ネムは空港からの夕焼けを見ていた。



未だ直樹の姿はない。



エチオピアからの直行便はないことを知り、どこから経由してくるのかもわからず途方に暮れていた。



一日何万人も行き交うこの場所で、たった一人を見つけ出すなんて至難の技だ。



ましてや時間も便も分からない。



ネムはハネムーンに行くであろう夫婦を見つめ、『いつかは直樹と…』と緊張する心をほぐしながら背筋を伸ばしたりしてみた。



絶対に直樹を見逃せず、トイレに行くのも我慢したが限界だった。



とにかく到着便の合間をぬって小走りで女子トイレの矢印の先に向かった。



そこから戻ろうとするとき、アジアン雑貨の店に目を奪われた。



『あの小物入れかわいいな。』



そう思った瞬間、その店内に見覚えのあるキャップを被った男性が目に入った。



『あれは出発前にバレンタインのチョコと一緒に渡したキャップだっ!!』



疲れが一気にふっとんで駆け寄った。



大きな声で「直樹!!」と叫びたかったが緊張のあまり声がでなかった。



しかし…



商品棚の影から、小柄な女性が目についた。



小走りしていた足を少し緩め、ゆっくりと立ち止まった。



二人は…手を繋いでいた。



見間違えたかと、違う角度から見える柱へ隠れた。



しかし…場所を変えたことが仇になり、二人がカップルであることを証拠づけるように直樹の右腕は女性の腰に廻った。



そこから一歩も動くことができず呆然と立ち尽くした。



そしてネムも自虐的に笑った。



笑いながら一生分かというほどの涙から頬から流れ落ちた。
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