いつもの場所
「ねぇ、あのお店怪しくない?ブランド品が雑に沢山おいてあるけど。」と、懐疑的ながらもわくわくさせる眼差しで近寄った。



「朱美、なんか1つ買ってやるよ。」



朱美は立ち止まった。嬉しかったのだ。でも、悲しかったのだ。少ない持ち合わせから私のための出費、しかし明らかな偽物品。二人の関係を物語っているようだった。




その時だった。



「えぇー!!ちょっとこれ!!」と周りも振り返るような大声で朱美は叫んだ。



目線を落とした先には綺麗にスライスされたような靴底だ。そう、靴底。朱美のスニーカーの靴底が抜け落ちたのだ。靴の貧乏チャマ状態ではないか、なんとも間抜け。



二人は急いで靴屋を探した。そして店員に身ぶり手振りで説明し、ようやく靴を購入し履き替えた。いつかこの旅を振り返ったとき、きっとここの店員のバカにして笑う顔が一番印象的になるに違いない。



こうして二人の一泊二日の旅は笑いと共に幕を閉じた。



帰国した晩、二人は朱美の両親に土産話をした。このところ賢太郎は彼女の実家で夕食を食らっている。だが朱美の両親もそれを当然のように、すでに義息子として受け入れられていたのだ。



そのときだった。父が呟いた。



「おかしいなぁ。ここに入れといたはずの金がねぇんだ。」



「本当にそこにしまったの?あんた忘れっぽいからねぇ。」と朱美の母はため息をついた。



その後、このことが二人にとって大きな事件になるとは彼女は予想もしなかった。

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