いつもの場所
「おぉ、朱美おかえり。やっぱり父さんの金が消えてんだよ!前におかしいと思った時からちゃんと記録をつけてたんだよ!ほら、これおかしいだろう?!泥棒が入ったんだ、泥棒が!!」



父親のおさまらない怒りでつり上がった目を朱美は見ることができなかった。



「とにかく家族の指紋をとりに明日また警察がくるでな!あぁ、念のため賢太郎君も一緒に指紋とってもらうか!犯人に間違えられたらいかんもんなぁ。」



「え?なんでみんなの指紋をとるの?」



「そりゃ出入りする人間以外の指紋がないか調べてもらうのさ!」



「そこまでするの~!!すごいことになってるね」と苦笑いをする朱美。



「当然だ!額は小さいがこれは立派な窃盗事件だぞ!!」



朱美はとにかく言われるまま賢太郎に電話して明日の3時に来てもらうことを伝えようと使いなれないスマートフォンを手に取った。



トゥルルルル…


トゥルルルル…



コールが鳴る中ふと気付いた。「この胸騒ぎはきっと何かの間違いだ!だってありえないじゃない、私が好きになった人が窃盗だなんて!しかも彼女の父親にそんなことする?!」まさか大好きな賢太郎が関与していると思ったのが恥ずかしいと、いつしか心は軽くなった。



「もしもし?どうした?」と賢太郎の明るい声を聞くと不安だったことがバカみたいだと思えた。



一通り訳を説明して、警察に協力してほしいと伝えたところ賢太郎は快諾した。今日のところは大変そうだという賢太郎の気遣いで夕飯は家族3人で食べることになった。

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