いつもの場所
19. キスをする二人



4人はまるで探偵のようだった。時折絵里はドアに沿って窓からじっと斎藤と瑞穂を見つめた。きっと外から見ればもぐらたたきのようにピョコピョコと頭が出てる異様な車内だと思われただろう。



15分ほどすると、斎藤の車内のシルエットが動き出した。そこに写し出された二人は明らかに体を寄せていた。恐らく瑞穂が優しく抱き締められ、口づけを交わしていた。こんな至近距離で他人の、いや知り合いのイチャイチャを拝見するなんて…と凛々子の車内は鼓動のカルテットのようだった。



しかし絵里の鼓動の理由は違った。



絵里は…斎藤とは体の関係はあってもキスは一度もしたことがなかった。



彼女は憎悪や悔しさが登り竜のように一気に込み上げた。この時裕也とのことはすっかり忘れていた。



いてもたってもいられなくなった絵里はギリギリを越える程窓に貼り付いて隣を覗き込んだ。見なければいいのに…でも我慢ならなかった。



その時、不審に思ったのか、斎藤と瑞穂の動きが止まった。あちらもこちらを覗き混んでいるようだった。



「絵里、見つかるって!しゃがんでしゃがんで!」と朱美の声も届かず、ついには斎藤と絵里は目があってしまった。



斎藤は汚いものを睨み付けるように運転席に姿勢を戻し、直ぐ様エンジンをかけその場を去ろうと駐車場の出口に向かった。



絵里の頭からプツンと音がした。もう誰の声も届かない、『キレた絵里』になった。彼女もエンジンをかけ斎藤の後を追った。



3人は「えーーーー!!追いかけるの?!」と絵里の運転の荒らさと表情に怯えた。



< 75 / 92 >

この作品をシェア

pagetop