いつもの場所
「家族のみなさんで、何かと間違えてここから現金を持ち出してしまったとは考えられませんか?」



「おいっ、まさか母さんか?!俺はボケてはないぞ!自分がどれだけ使ったかぐらいわかるさ。」



「何いってんだい!あたしじゃないわよ!私だってボケてなんかないわ!朱美だって間違えるなんてないでしょ?!」



「娘を疑うなよ。」と朱美がいい放つと同時に警察が割って入った。



「いえいえ、すみません。言い方が悪かったですね。喧嘩などなさらずに。」



他人の前でヒートアップしそうになった3人が顔を赤らめた。



父が咳払いをして一言、「金は戻ってはこんのかねぇ。」



一同冷静さを取り戻したとき、警察がまた口を開いた。



「うーん、この手の場合、経験上ほとんどが家族内で勘違いをされてたことが多いですね。」と、遠回しに語ったものの要するに家族がこっそり持ち出すことが多いといいたいことは安易に伝わる。



父は昔からなんだかんだ母のことを愛してやまない。ギャンブルや酒、たばこ、女、どれも父には関わりのない言葉。



母は、同居していた義理の両親とようやく別居できたことで安堵しており、きらびやかな生活、宝石なんて目もくれず、服だってあるもので充分、と趣味は手芸くらい。



となれば、一番疑わしきは借金を抱える彼氏がいる朱美だが、もちろん両親は娘のことを当然微塵も疑わない。



「とにかくあとはお一人出入りされる方の指紋を後日採取しますので、都合のよい日程を改めてご連絡ください。あ、申し遅れましたが私石田です。お電話はこちらに。」と、小さい紙を差し出し、その場を後にした。


ほどなくして、



『今日はごめん。体調がよくなったんだけど、よかったら今からお茶でもしない?』



賢太郎からのメールに朱美は心踊らせた。
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