いつもの場所
絵里は凛々子たちも見たことがない程素早い動きだった。そしてついにボーリング場のいちばん奥、行き止まりにかおりを追いやった。



かおりは『ここまで来るか』といった面倒くさげな表情で、最後の手段、トイレの個室に入り鍵をかけた。



さすがに絵里も追いかけられないだろうと凛々子たちも足早に絵里に追い付き「もう帰ろうよ」と優しくなだめた。



しかし絵里の怒りは想像を絶するようだった。彼女はかおりが入った個室のドアをものすごい勢いで蹴り始めた。中から聞こえるかおりの声は誰かと電話で話しているようだった。恐らく裕也だろう。



凛々子たち3人は必死に絵里を止めた。そろそろ本当にドアが壊れそうだったからだ。



「絵里!本当にもうやめなよ!こんなことしてまで一緒にいるような男じゃないよ、裕也くんなんて!」



ネムの必死の声も全く届かなかった。永遠にドンドンガチャガチャと鳴り響く女子トイレに人だかりもできはじめていた。その時だった…人混みを掻き分けて一人の男性が入ってきた。



警察だった。



「落ち着いてください!大丈夫ですか!私○○署の石田です。市野さんからの通報がありましたが、あなたが…」



と、この後警察に事情を長々と聞かれたのは言うまでもない。



絵里は彼氏の浮気現場を目撃してから一度も会うことなく別れを迎えたのだ。いや、そうせざるを得なかったのだ。



そう、『市野裕也』彼が絵里にとって初めての恋人。恋愛は楽しいだけじゃないことを学んだ『一応』大切な思い出。
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