いつもの場所
淳との恋愛は、初めから凛々子の立場が弱かった。付き合った当初は彼女が彼に首ったけだったからだ。



『今から来い』『電話しろ』『下手くそ』日々、罵倒されていたが、そこは『惚れた弱味』。



彼女はずっとそれに従ってきたし、従うしかなかった。淳に抗おうものなら、『じゃ別れる』の一点張りで、浮気を横目で見逃したことも何度かあった。



その上、彼は意外にも男女問わず人気があった。そんな王様な部分は凛々子にしか見せず、友人たちには優しく面白く、場の雰囲気を明るくするおちゃらけた部分もあった。



しかしルイは違った。そう、彼はヨーロッパ出身。それぞれの国の文化も違ったが、凛々子にとっては全てがきらびやかに見えた。



彼の国では女性が大切にされるのが当たり前だった。優しい言葉、優しいキス、紳士な対応、ルイは凛々子にとってパーフェクトだった。そして彼女の中から淳の存在を一瞬にして消し去るには十分すぎるスペックだった。



ルイも日本には来たばかりで凛々子の世話焼きが心地よかった。ルイの国では気高い女性が多く、親切でいつも自分を立ててくれる日本人女性は魅力的だった。『日本人』なら誰と付き合おうと、ルイにとっては関係無かったのかもしれないが、二人はフィーリング、タイミング、そしてハプニングがぴったり揃っていた。その最後の『ハプニング』がこの目の前にいる元カレ、淳だった。



「武司、こうゆうことだったのね。」



凛々子はそう言って目の前の手付かずのパフェには目もくれず鞄をもって立ち上がった。
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