いつもの場所
凛々子はルイの車にのるとすぐに身を運転席側に乗り出して顔を近づけた。彼も待ってましたと言わんばかりに唇を重ね、軽くハグをした。二人は特に人目を気にしなかった。人が横を通ろうと、二人の世界はまるでヨーロッパの街中にいるようだった。



二人はすぐに車を走らせ、近くの串カツ屋へ入った。ルイは、就職先を日本に選んだ理由のひとつに『食の文化』があった。彼はとにかく日本食が好きで、中でも串カツや焼き鳥が大好物だった。



凛々子はこの彼のギャップがたまらなく好きだった。整った顔立ちにグリーンの瞳、髪こそ黒かったものの背格好は『外人候』なルイ。こんな、あたかもワインやシャンパンが似合いそうな彼が、どっぷり日本に浸かって生ビール片手に焼き鳥を頬張っている。毎回飽きずに見とれていた。



二人は会話も弾み楽しい時間が流れた。国や言語、文化の違いを話せば時間も忘れお互い夢中になった。



ふと、店内の入り口から騒がしい声がした。お酒を飲んで少し気分のよかった凛々子はこの一日の出来事なんてすっかり忘れ、ただルイとの時間を楽しんでいた…はずだった。



「あの~お客様?」と店員に声をかけられている客を見て二人は動きがぴたっと止まった。
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