不思議の国の白雪王子
「いぎりす…?どこだそこは?君の母国なのかい?」
王子は不思議そうに言った。
「え?いや、私は日本だけど。」
「にほん?知っているか、ラビー?」
「いえ、存じ上げません…」
どうやら本当にわからないらしい。
2人の頭上にはてなマークが見える。
「あなたは、本当に王女ではないのか?」
私はうんうん、と勢いよく頷く。
すると、王子は大きなため息をついて髪をクシャクシャとかき分けた。
「んだよ…王女じゃねーなら連れてくるんじゃなかった。」
は…?なんか急に態度が…
「お、王子!本性が出ておりますよ!」
「構わねえよ。こいつお姫サマじゃないんだろ?だったらどーでもいー。」
さっきまでは背筋を伸ばして座っていたのに、急にぐたーっと机に突っ伏した。
「あー、あんたもう帰っていーよ。てか早く出てって。」
シッシッと言うように手で払われる。
何よこいつ…私が王女じゃないって分かった途端に態度変えて…
「ラビー。早くこの女連れてけ。」
バンッ!
突然の音に王子とうさぎはこちらに目をやる。
私は机に手をついてワナワナと震えていた。
もう我慢できない…!
「こっちはどこか分からない場所で勝手に振り回されて混乱してるって言うのに…」
私はボソボソとつぶやく。
「は?何言ってんの?」
「帰りたくても帰れないのよ!ここどこよ!グリム王国なんて訳の分からないこと言ってないでさっさとちゃんとした情報教えなさいよ!てかキスされたことまだ謝ってもらってないんだけど!!」
ハーッハーッと肩で息をしながら私はまくし立てた。
王子はポカンとしていたが、急に顔を下に向けて黙り込んだ。
肩がヒクヒクと動いている。
え、もしかして泣いてる…?
そんなにキツい事言ったかな…
で、でもこっちは混乱してるんだし!私は悪くないわ!
「ねえ、何か言いなさ…」
言いなさい、と言いかけた途端、王子はアハハ!と爆笑し始めたのだ。
え、泣いてたんじゃなくて笑ってたの!?
王子はしばらく笑い続け、突然立ち上がった。
机の上に上り、私に近づく。
私は何故か身動きがとれなかった。
そして王子は私の顎をガッと掴み、上に向けさせた。
「謝る?俺が?」
口は笑っているのに目が笑っていない。
うさぎが「あわわわわ…」と机の向こうで慌てていた。
「この俺を誰だと思ってる?」
怖くて目がそらせない。
「だ、誰って言われても…」
「その御方はグリム王国王位継承権第一位、白雪王子である!」
うさぎが、仕事柄なのか反射的にそう答えた。
白雪王子と呼ばれたその男は、「はあ…」とため息をついた。
私の顎を掴んでいた手を放す。
「そう、俺王子様なの。あんたより偉いの。だから謝る必要なんてないの。」
王子様とか関係ないわよ!って言いたかったけど怖くて言えなかった。
「つーか、あんたこそ王女だっつって俺のこと騙したじゃん。謝ってくれない?」
「それはあんたが…っ」
反論しようとしたら睨まれたので黙った。
「で?なに?帰り方がわかんないって?」
私はまた、うんうん、と頷く。
すると、うさぎが地図らしきものを持って来て王子に渡した。
え、地図で探してくれるの?
そんな目で王子を見ていたら、
「ごめんね?怖がらせて。俺、頭に血がのぼるとすぐ暴走しちゃうんだ。女の子相手なのに…」
少し、しゅん…としながら謝り、地図を差し出してくれた。
なんだ結構いいやつなんじゃん…と思いながら地図に手を伸ばすと、ヒョイっと避けられた。
「は…?」
王子はまたクックッと笑っている。
「俺がそんな優しいわけねーじゃん。お前バカだな!」
こいつ…本当にムカツク!俺様な上に意地悪だ!
「帰り道くらい自分で探すからいいわよ!お世話になりました!」
私はそう言って客室のドアに向かった。