不思議の国の白雪王子
「チッ」


王子は、はあ…と溜息をつくと、部屋に置いてある黒電話…ではなく白電話でどこかに電話をかけた。


白い電話なんて初めて見た…


「ああ、ラビー。俺だ。チェシャに剣を盗まれた。たぶんまだ城の敷地内にいると思うから…ああ。頼んだ。」


電話を終えた王子に、私は疑問に思った事を全部ぶつける。


「何?あの剣、大切なものなの?てかどうして私キャサリンなの?何でチェシャさん消えたの?」


「あいつが持って行ったのはこの城で1番大事な宝だよ。」


「え、1番大事な!?」


王子が言うには、あの剣はグリム王国の王族で代々受け継がれているものらしい。


「お前がキャサリンなのはハートの女王に"アリス"を獲得したと知られたら面倒だからな。チェシャはハートの女王側なの。」


「??何で知られたら面倒なの?」


「チェシャが消えたのは…そう言う能力?があるからだ。魔法使いみたいなもん。猫だけど。」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


一気に聞いたのは私だけど、全く頭がついていかない。


「1番大事なお宝を、あんな簡単に持って行かせちゃっていいの?」


「…アレはニセモノだよ。あんな宝をそんな簡単に盗らせてたまるか。」


あ、なんだ。ニセモノなのか。


「でも、あれを取り返しに行かないとニセモノだとバレるよなあ。あいつが簡単に捕まるわけねえし…面倒くさいけど、明日取りに行くかあ。」


王子は独り言の様にそう言ってあくびをした。


「取りに行く!?戦争するの!?」


「はあ?んなわけねーだろ。普通に取り返すだけだ。」


「ああ、忍び込むのね…」


「何言ってんだ。正面から行くけど。」


…コイツ実はバカなのかな?


敵なら正面から行っても入れてくれるわけないのに。


「正面から入れてくれるわけないじゃない。」


「入れてくれるけど…?お互いしょっちゅう行き来してるし。」


しょっちゅう!?


「そ、そんな軽いノリでいいの!?」


「いいんじゃね?よくハートの女王が来て荒らして帰ってくぞ。たまにはお返ししてやらねーと。」


「でも西と東でいつ戦争が起きてもおかしくないって…」


「……俺が思うに…戦争の引き金はアリス、お前だよ。」


え?どうして私が?


言いたいことが顔に出ていたらしく、王子はそのまま続ける。


「"アリス"を巡って、戦いが起きるんだ。お前を獲得した方が王になれるんだから。だからさっき、お前にキャサリンと名乗らせたんだよ。まだ西側には知られたくないからな。」


王子は「戦争を起こすのも終わらせるのもお前次第ってわけ。」と付け足した。


その言い方は、まるで私が道具であると言っているようで。


何故か、王子にそんな言い方をされて悲しくなった。


「獲得って…私はあんた達の"物"じゃないわ。」


私は王子を睨みつける。


「あ?何怒ってんだ。」


私にも分からない。何で自分がこんなに怒っているのか。


でも、道具扱いされた事に怒っているんじゃない。


王子が私を物のように扱うから。


分からない。


どうして私は昨日会ったばかりのこの男を見ると心臓がうるさいのか。


チェシャさんと仲の良さそうな所を見て心が傷んだのか。


どうしてこの人の側にいたいと思うのか。


……全く分からなかった。
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