不思議の国の白雪王子
「今からちょっとした用事で西側に行くんだよ。だからついでに寄った。」


白雪は紅茶を口へ運びながらそう答えた。


その答えに、帽子屋さんは呆れたようにポリポリと顔を掻く。


「そんなの、言ってくれりゃ俺が行くよ。わざわざ自分から城を出て命を晒すことねえだろ。なあお譲ちゃん?」


私は急に話を振られたことに驚いて「え、あっ、亜利子です!」と答えてしまった。


帽子屋さんは「アリス…!?」とお城の皆と同じ反応をした。


やばい、亜利子って言っちゃった!


お城の皆以外にはキャサリンじゃないと…!


「えと、亜利子じゃなくて、キャサリンです!間違えたんです!私キャサリンでした!」


あまりにも焦り過ぎて、自分でも何を言っているのかわからなくなって来た。


焦りを誤魔化すように紅茶を飲み干す。


そんな私の頭を、白雪が「こいつは言っても大丈夫だ。」とポンポンッと撫でてくれた。


それだけで私は心底安心する。


「君がアリスか!そうかそうか!ようやくアリスが来てくれたのか!」


帽子屋さんは、嬉しそうにもう一度「そうかそうか!」と繰り返すと


おかわりのアッサムティーを注いでくれた。


「俺は"帽子屋"だ。ここでカフェやってる。白雪とは…親父さんの方と少し知り合いなんだよ。」


帽子屋さんは少し照れくさそうに笑った。


白雪は彼の自己紹介に興味はないらしく、


カウンターの上に並べられている紅茶のビンを物色していた。


「帽子屋さんは…帽子を売っている訳じゃないんですか?」


私は疑問に思っていたことを聞く。


名前は帽子屋さんなのに、カフェやってるなんて何か変なんだもん。


「ここに並べられてる帽子は俺の趣味で集めてる物なんだよ。」


一つのカンカン帽を手に取り、うっとりと眺めながら続ける。


「俺の本業は、カフェでも帽子屋でもなくて…情報屋なんだ。」
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