不思議の国の白雪王子

一体どこから現れたのか、白雪は私の前に立っていた。


白雪の顔は見えないけれど、声が不機嫌そうだ。


「久しぶりだね、シロ。」


クロさんは白雪を見て無表情に言った。


「その呼び方やめろ、黒雪(クロユキ)。」


シロって、白雪の事だったの?


それに黒雪って…


白雪とクロさんはお互いに無表情で見つめ合っている。


そんな2人を、チェシャさんはニヤニヤと静かに見物していた。


しばらくすると、突然白雪がクルッと私の方を向いた。


「…帰るぞ。」


「あ…でも、剣は?」


「もういい。」


白雪は前に向き直って早足で歩き出す。


クロさんの横を通り過ぎる時、彼が口を開いた。


「…逃げるんだ?」


その言葉に、白雪の足が止まった。


「相変わらず弱虫だね。」


ガッッ


白雪は私の腕を掴んでいた手を離し、クロさんの胸ぐらを掴んだ。


「俺は…もう誰も傷付けねえ。」


怒りを含んだ低い低い声でそう訴える。


私は、白雪のこんな声を出会ってから初めて聞いた。


「キレイ事だけじゃ、誰も守れないよ。」


「お前…っ!」


白雪が、我慢できず殴ろうと拳を振りかざす。


今、誰も傷付けないって言ったのに…!


私がそう思って止めに入ろうとしたその時。


「ギュギュッ!」


クロさんの髪の中から、真っ黒な何かが飛び出した。


"真っ黒な何か"は白雪に勢いよく飛びつく。


「〜〜!離れろ、ブラッディ!」
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