不思議の国の白雪王子
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「痛い!痛いってば白雪!」
ハートの女王の城を出てから数十分。
白雪はずっと私の腕を掴みながら、ズンズンと森を進んで行く。
腕を掴む白雪の手は、森を進むに連れてどんどん力が強くなった。
私がどれだけ「痛い」と訴えても全く聞く耳を持ってくれない。
それどころか、ますます強く握るばかりだ。
森を歩いている間、白雪は何を話しかけても無視だった。
剣はどうしたの?
クロさんとはどう言う関係なの?
もう誰も傷付けないってどう言う事?
白雪のお母さんって誰?
聞きたい事はたくさんあるのに、その答えは返って来ない。
40分程歩いた所で東の城が見えて来た。
よかった…これでようやく離してくれるよね…
私はそう思って胸をなで下ろしたが、白雪は離す気配がない。
「王子!お帰りなさいませ!」
ラビちゃんがお出迎えをしてくれたのに、それも無視してお城に入っていく。
ラビちゃんはそれを不思議そうに眺めていた。
お願い!見てないでどうにかして!
目で必死に助けを求めたが、その思いは届く事なくラビちゃんの前を通り過ぎる。
そして、白雪の部屋に連れて行かれた。
バタン。
部屋の扉が閉じられた時、私は「もう逃げられない」と思った。
私の方を振り返った白雪の目は鋭く、思わずビクッと肩を揺らしてしまう。
白雪は掴んでいた腕を離し、私をベットの上に乱暴に押し倒した。
「きゃあ…っ!?」
私の手首を押さえつけ、鋭い瞳で見つめてくる。
いや…見つめると言うよりは睨みつけるような目をしていた。
広い部屋の中には、休む事なく歩き続けて
揚がった2人の息づかいだけがこだましている。
「アイツにどこ触られた?」
「え?」
「黒雪に!どこ触られた!」
怒鳴るように、叫ぶようにそう言う白雪。
私はこの時、初めて本当に白雪を怖いと思った。
「どこも…触られてない…」
フルフルと首を横に振って否定するが、怖さで声が震えてしまう。
「腕触られてただろ!他に何された!?」
「本当に…触られてない…何もされてない…!」