不思議の国の白雪王子
翌朝。
いつものように学校へ登校して、いつもと同じ待遇を受ける。
そんな日常の昼休み。
今思えば、この時から何かが始まっていたのかもしれない。
キーンコーンカーンコーン…
4限目の授業の終わりのチャイムが鳴り響き、私は世界史の教科書を机の中に入れようとした。
しかし、何かが引っかかって上手く入らない。
何だろうと思い手を入れると、時計が出てきた。
「懐中時計…?」
何で私の机に懐中時計なんかが入っているの?
また誰かからのプレゼントかな…?
以前は靴やらバックやらが毎日机の上に置かれていた事もあった。
とりあえず隣の席の男子に聞いてみるが「違う」と首を振るだけだった。
「亜利子!早くご飯食べようよ!」
「あ、うん。」
花に急かされた私はとっさに懐中時計をスカートのポケットに入れた。
私は大体の休み時間を花と過ごしているが、昼休みになると
クラスで多少は目立っている子達が、ここぞとばかりに寄ってくる。
だから、お昼休みだけは10人くらいのグループで食べているのだ。
いつも誰かが私の気を引きたいと何かを話しているが、私達はあまり会話に参加しない。
話しが全然面白くないんだもん。
でも、今日は珍しく花が口を開いた。
「ねえ皆、私ね…彼氏ができましたっ!」
ええっ!とどよめきが起こる。
正直私も食べていたグラタンを溢しそうになった。
「おめでとう!」と皆が口々に言う中、女子Aが「お相手は?」と少しニヤニヤしながら聞いた。
騒いでいた女子達が急に静かになる。
「えっとね…バスケ部の山田先輩♡」
またどよめきが起きた。
「山田先輩って、めちゃくちゃイケメンだって有名な先輩じゃん!」
「どうやって知り合ったの!?」
などと騒ぎ立てる。
でも、そんな声私には届いてなくて。
だって、その先輩に先に興味を持ったのは私だったから。
前に私が先輩を見にバスケ部の見学に行った時は「あんまり格好よくない」と言っていた。
私が先輩と話すようになっても、花は私の近くにいるだけで絶対に話そうとはしなかった。
それに…先輩は絶対私の事が好きだと思ってたのに。
予想は絶対にハズレた事がなかったのに。
なんで、どうして…?
「亜利子?どうしたの?」
花の問いかけでハッと我に返った。
「あ、いや…私も知ってる先輩だったから驚いて。よかったね!おめでとう。」
そう言うと、花は幸せそうに笑った。
私は職員室に呼ばれていた、と言って教室を出た。
向かう先は職員室ではなくトイレだけど。
トイレの個室に入って考え込む。
どうして花なのだろう?
容姿も頭脳も、私の方がずっとずっと上なのに。
私の方が花よりも何百倍も努力しているのに…!
そんな事を考えていたら、女子の集団らしき人達が入って来る気配がした。
「さっきの亜利子の顔、見た?」
キャハハと声高く笑う……花の声が聞こえる。
「あの顔は絶対、先輩が自分の事好きだって思ってたよね!(笑)」
「花ひどーい。親友なんでしょ?(笑)」と女子B。
「誰が!いつも仮面みたいなニコニコ笑い浮かべて、
自分が世界の中心にいると思ってるんだよ。
可愛いからって、女王様気分に浸っちゃって。
どうせ心の中では私達の事嘲笑ってるのよ。大嫌い。」
他の女子達も「腹黒いねー」なんて言いながら笑っている。
「1回絶望する時の顔見たかったんだよねー!」と、
また声高く笑いながら花達は教室に戻っていった。
ああ、やっぱりそうか。
人間なんて信用するもんじゃない。
もしかしたら私を分かってくれるんじゃないか、なんて期待しない方がいい。
期待した分だけ絶望が大きいのだから。