不思議の国の白雪王子
教室に戻ると、ちょうど昼休みが終わり、5限目のチャイムが鳴った。
あー、よかった。今は花と話せるような気分じゃない…。
そう思っていたら、スマホが鳴った。
ピコンッ
やば、マナーモードにするの忘れてた。
「こら、誰だ。ケータイの電源切っとけよー。」
先生が犯人を探すように教室を見渡す。
「先生…ごめんなさい。」
と、少し目に涙を溜めて言うと
「つ、次からは気を付けなさい…///」
私は「はあい」と返事をしながら、やはり男なんて皆こうなんだと思った。
それなのにどうして先輩は…。
先輩だって、私と話すときは頬を染めて、それはそれは嬉しそうに…
ああもう!ムカツク!LINE送ってきたの誰よ!
イライラしながらスマホのディスプレイを確認する。
私にLINEを送って来たのは花だった。
花の方をチラリと見ると、こちらに向けてペロッと舌を出して笑っていた。
私はそれに笑いかけ、メッセージに目を向ける。
【今日、一緒に帰らない?先輩に亜利子の事紹介したいんだ!】
紹介って…私と先輩が知り合いなの知ってるじゃない。
そう思ったけど、ここで断ったらなんだか負けた気がするので
【うん、いーよ!私も先輩に『花の事お願いします』って言いたいし♡】と送った。
もう一度花の方を見ると、今度は親指を立てて嬉しそうにしていた。
でもその顔は純粋に喜んでいる顔ではなく、ニタリといった感じの悪い顔だった。
あーあー、顔に出てますよー。
悪い顔になってますよー。
花は私が落ち込むのが見たくてしょうがないんだろう。
私はそれには反応せず、スマホを仕舞って授業を聞いた。
そして放課後の帰り道。
花、先輩、私、と言う並び順で彼女とその友達に挟まれる異様な光景が作り上げられた。
「そおだ!せっかくだし3人で写真撮りましょうよ!」
いきなり花が提案してくる。
「え、写真?3人で…?」先輩は困惑しているようだ。
花はどうしても私にダメージを与えたいらしい。
ふん、もうこうなったらヤケクソよっ。
「いいね!撮ろう!ね、先輩?」
先輩は私の顔を見ようとはせず、「そ、そうだね」と言った。
たぶんこの人は、一度は絶対私が好きだった。
でも自分から告白する勇気もないし、周りはどんどん彼女ができていくし…
と言うところだろう。ある意味、花と利害が一致したわけだ。
花は私にダメージを与えたい。先輩は彼女がほしい。
ホント…醜いなあ。
「亜利子!先輩!はいチーズ!」
カシャッ
私達は3人で写真を撮り、しばらく歩いたところで花達はこれからデートに行くと言って街の方に歩いて行った。
私はそのまま家に帰る。
疲れたなあ…何か飲もう…。
そう思いリビングへ行くと、机の上に五千円札と『これで何か食べて下さい』と言うメモが置いてあった。
はあ…まぁ、お母さんと一緒にご飯食べるよりはマシだけど。
メモをゴミ箱に捨て、五千円札は机に置いたまま自分の部屋へ行き、ベットに倒れ込む。
そして今日のことを考えた。
今日はいつもより疲れたなあ。
どうして皆、あんなに歪んでいるのだろう。…私も含めて。
「もし私が世界を作るなら、キレイなものしかいらないのに…。」
そう言った途端に、スカートのポケットから懐中時計が落ちて来た。
「あ、持って帰って来ちゃった。」
まあいいかと思いもう一度時計を見ると、違和感に気付く。
「この時計、逆回りに進んでる…?」
時計は反時計回りに進んでいたのだ。
しかもものすごいスピードで。
壊れたのかな?
そう思っていたら急に眠気が襲って来た。
なんだろう、急に眠くなってきた…。
ああ、もう疲れた。このままずっと眠り続けていられたらいいのに…。
意識が遠のく中、視界の端に白い物が写る。
何かしら…うさぎの様に見えるけれど…うさぎなんて家にいるわけないし…
私はそんなことを考えながら、重い瞼を閉じた―。