さよなら、もう一人のわたし
わたしの夢
 わたしはゆっくりと深呼吸をして、目の前に並ぶ男性たちを見据えた。

 「八番、平井京香です」

 そこはビルの一室だった。しかし、一室といっても会議などで使われることもあるのだろうか、部屋自体は学校の教室よりも広かった。

 その正面には折り畳みの机と椅子があり、五人の男性が座っていた。けだるそうにしている人、真剣な瞳で見ている人、手元の資料をめくっている人。その様相は様々だ。

 その真剣な目で見ていた男性が、わたしの姿を視界に収めた。

 見られていると分かって、わたしの心臓は大きな音を立てて鳴り出した。前もって言おうとしたアピールポイントを言おうとしたが、上手く言葉が出てこない。

「君はどうしてこの映画に出たいの?」

 これはある映画の主演を決めるオーディションだった。一般公募をしていたのを見かけ、わたしは飛びつくように応募をした。

「女優に、なりたくて」

 自分の声が震えているのに気づく。

 こんなんではだめだと思いつつも、想像したように滑らかに言葉が出てこなかった。

「まあ、いいや。とりあえず台本のセリフを言ってみて」

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