さよなら、もう一人のわたし
「大丈夫よ。わたしが気に入ったんだもの」

「まあ、千春には甘いから。でも」

「わたしがこの本を演じるから、あなたも同じように演じてみて。もちろんコピーする必要はないけどね」

 彼女は本棚から小冊子を取りだして、わたしに渡した。表紙は無地で何も書かれていない。

 そこは少女と父親と思しきやり取りがつづられている。

「見ていて」

 千春はわたしと笑みを浮かべた。そして、目を閉じると、唇を軽く噛んだ。

 彼女の瞳が見開かれる。でも、その瞳はわたしの知る千春ではなかった。もう少し幼く見える。

 鳥肌が立ち、辺りの空気が一変するのが感じられた。

 中学生くらいだろうか。

「本当、パパったら最悪」

 唇を尖らせ、乱暴に机に座る。彼女は肩をだらんとさせて、天井を見ると、溜め息を吐いた。

「そんなこと言ったってテストで悪い点とるお前が悪いだろう?」
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