さよなら、もう一人のわたし
「あなたは女優になりたいのでしょう? それならこれくらいできないと論外よ」

 彼女のもっともな言葉に反論できないが、彼女ほど演技がうまい人はそうそういない気がした。

「この前のオーディションの演技もね、こうしたらよかったのよ。脚本は覚えている?」

 わたしは頷いた。

「じゃあ、友人Dの言葉を言ってみて」

 わたしは深呼吸をすると言葉を綴った。女子高生の他愛ないワンシーン。それがわたしがオーディションで受けた役だ。

「あなたが好きだと言っていたあの人はどうなっているの? 一緒にいるのを見かけたのよね」

 千春の目が輝き、頬がほんのりと赤くなっていく。そこにいるのは人に恋する少女だ。

「違う。勉強をしていただけよ」

 千春がわたしを見て、笑顔を浮かべる。

「でも、帰りがけに家まで送ってくれたんだ。遠回りだったのに」

 些細なことで喜ぶ、恋する少女。まるでそのものだ。千春のキラキラとした目の輝きがなくなり、さっきの冷めた感じの目に戻っていた。

「こんな感じだったら、合格できたんじゃない?」

「もしかして、受かったの?」

「受かったのはあなたの後の前原さん」

「じゃあ、前原さんはあなたよりうまいの?」

「どうだろう。彼女にはスポンサーだってついているしね。彼女の実家ってそこそこの規模の会社を経営しているのよ」
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