さよなら、もう一人のわたし
 用事があったわけではない。ただ、彼を見たかったのだ。

 わたしは自分の気持ちをごまかすために、彼を見た「用事」を適当に繕うことにした。

「この家にはDVDやビデオがたくさんあるんですね」

「置き場所に困っていて、放置している状態だよ」

 わたしはまさかそんな返事が返ってくるとは思わずに彼を見た。

「変なこと言った?」
「そうでもないです」

 てっきり誰がこれを集めているという具体的な話になると思っていたためだ。彼以外だと両親辺りなのだろうか。

「飲み物でも出すよ。コーヒーでいい?」

 わたしが頷くと、彼はカウンターキッチンの中に入る。

「一つ聞いていいですか?」
「何?」

「どうしてこの家にはこんなに昔の映画があるんですか?」
「いろんな理由があるけど、簡単に言えば父親の趣味かな」
「お父さん?」

 尚志さんは頷く。

「今、どこで何をしているか分からないけど、映画が好きな人だったから」

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