さよなら、もう一人のわたし
 彼の瞳に悲しみが映るのが分かった。

 他にも聞きたいことはあったのに、彼の瞳に口止めされてしまった。

 お父さんがいないということは母親と三人で住んでいるのだろうか。

「おまたせ」

 ジーパンにシャツというラフな格好をした千春が明るい言葉とともにリビングに入ってきた。

「コーヒー飲むの? ならわたしのもよろしく」


 彼女はソファに座ると、テーブルの上に置いてある雑誌に手を伸ばすと、それらを重ねだした。一通りまとめ終わると、千春はソファの背もたれに手を置き、のしかかるようにこちらを覗きこんできた。

「見たい映画やドラマあるなら流す? 貸してもいいよ」
「そうだね」

 わたしは一通り視線を送る。そして、端のほうにわたしが好きだった仁科秋が出ていた映画のビデオがあるのに気付いた。その隣にあるビデオに触れようとすると、突然横から手を掴まれた。

「この辺りはダメ。別の場所から選んで」
「どうして?」
「どうしてもよ」

 わたしは仕方なく、別の作品を捜すことにした。
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