さよなら、もう一人のわたし

 千春はキッチンにいる兄を睨んでいた。

「面倒だから片付けておいたのに。お兄ちゃん、どうしてこれをここに並べたのよ!」

「邪魔だったからだよ」

「物置は物を片づけるところでしょう」

 尚志は千春を見ることもなく、淡々と答えた。

 なぜ千春はその近くにあるビデオをそんなに見られたくないのだろうか。

「この映画をお願い」

 わたしは二人にこれ以上言い争いをしてほしくなくて、昨年ヒットした映画のDVDを差し出すことにした。


 映画を観終わり、帰ろうとすると、千春が送ると言い出した。

「大丈夫だよ。送ってもらわなくても」

「いいよ。どうせ買い物行かないといけないしね」

 千春はそう言うと、わたしの肩を叩いていた。
 結局千春に押され、尚志さんに見送られ、二人で彼女の家を後にすることになった。

「お兄ちゃんもあなたを気に入ったみたいだよ」
「そっか」

 気にいると言っても映画に出る人としてだろう。余計な期待をしないように、自分に言い聞かせていた。

 わたしは気持ちを整えるために、別の質問を彼女に投げかけた。
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