さよなら、もう一人のわたし
「今日、一緒に帰らない?」
「いいよ」

 弘のことが頭を過ぎった。

「千春って恋愛に興味ある?」
「そんなもの興味ないけど」

 そう千春が口にしたのと同時にわたしのすぐ後ろの扉が開く。
 弘が顔をのぞかせたのだ。
 弘はこちらを凝視していた。

 千春は眉間にしわを寄せて、怪訝そうな表情を浮かべていた。

「何か用ですか?」
「いや、あの」
「わたしの幼馴染でクラスメイトなの」

 しどろもどろする弘の代わりに、わたしはそう言い放った。

「そう。よろしくね」

 千春は目を細めて、綺麗な笑顔を浮かべていた。
 わたしや兄に微笑みかけるときとは全く違う他人行儀な笑みだ。

 弘は変な声を出すと、そのまま教室の中に消えていってしまった。
 憧れていた美少女に笑いかけられ、どう反応していいのか分からなかったのだろう。

「変な人ね」
「悪い人ではないよ。正義感も強い人だもの」
「それは見ていたら分かるけど。また放課後ね。この近くにある本屋わかる? そこで待ち合わせよう」
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