さよなら、もう一人のわたし
 千春はわたしを見て笑っていた。

「他に何があるのよ。立ち話もなんだから、家に来る?」

 わたしは千春の言葉に頷いた。

「昨日、言ったこととも関係あるの。昨日、話をしておけばよかったわね」

 彼女はそう言うと、苦笑いを浮かべていた。



 わたしは昨日と同じように千春の家に行くことにした。
 彼女は鍵を開けると、家の中に入った。

 彼女は靴を脱ぐと、スリッパを出してくれた。
 わたしはそのスリッパを履く。

 彼女に連れられたどり着いたのは、二階の一番階段の近くにある部屋だった。
 千春はその扉をゆっくりと開ける。
 そこには机と戸棚が置いてあるだけの部屋で、部屋の中央にある窓のカーテンもしっかりと閉じられていた。

 千春はわたしより先に部屋の中に入ると、カーテンを開けた。
 太陽の日差しが部屋の中に差し込んできた。

「ここはわたしの母親の部屋なの」
「母親?」

 だが、その部屋はあまりに生活感がなかったのだ。
 千春は机の上に置いてあった冊子をわたしに手渡した。
 わたしはその題名を見て、思わずその中身を確認した。

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