さよなら、もう一人のわたし
 赤ん坊を抱いた水絵さんの姿があった。その傍にはしかめつらをした男性が座っていた。
 おこっているというよりは緊張で顔を強張らせているように見えた。その証拠に水絵さんは幸せそうに微笑んでいたのだ。

 これが千春の父親なのだろうか。
 わたしはアルバムを捲った。

 次のページにはハイハイをしている赤ちゃんの写真があった。なんとなく千春ではないなと感じる。そうなると尚志さんだろうか。

 そのすぐ後には幼稚園くらいのむすっとした顔の男の子が立っている写真がある。
 まるで写真を写している人を睨んでいるようだった、

「千春?」

 そのときわたしのいる部屋の扉が開いた。
 部屋の中に入ってきたのは尚志さんだった。

「どうして君が?」

 彼の見開かれた瞳がわたしの手元にあるアルバムを見る。
 彼は部屋の中に入ってくると、わたしからアルバムを奪い取った。
 わたしはそんな尚志さんの行動を見て、とっさに答えた。

「一応、千春の許可はもらっています」
「たく、あいつは。こんなもの見るなよ」
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