さよなら、もう一人のわたし
 わたしの母親は大きな瞳をした年齢のわりには若く見られる人だった。白い肌は彼女の表情をよりあどけなく見せていた。だが、その美しく滑らかな肌とは対照的に、胃が悪いのか唇がいつもかさついている記憶がある。

 彼女はほとんどメイクをしない人で、それは若いうちからそうだった。メイク自体が苦手なのか、若くしてわたしを生んだため、自分にかけられるお金が少なかったは定かではない。

 顔立ち自体は綺麗な人だと思う。だが、地味な人でもある。美しい人を花で表現するなら、薔薇と百合で例えられることがあるが、わたしのお母さんは後者だ。

 家のドアが開く。同時にどさっという物音が聞こえた。

 わたしは体を動かして、台所から玄関を覗き込む。

 そこには髪の毛を後方で一つに縛った、トレーナーにジーパンという格好をした細身の女性が座っていた。わたしの母親の平井真知子だ。

「大丈夫?」
「大丈夫。眠れば明日にはまた元通りだから」

 彼女は鼻をくんくんとさせ、目を細める。

「夕ご飯を作ってくれたのね。ありがとう」

 わたしは彼女の言葉に会釈した。

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