さよなら、もう一人のわたし
「日曜日、友達と出かけてきて大丈夫かな?」

 わたしは千春に言われたとおり、伯父に会いに行くのは伏せておくことにした。

「いいわよ。お金はいる?」
「大丈夫。そんなにかからないから」

 彼女は目を細め、首をかしげる。

「分かったわ。必要だったら気にせず言ってね。楽しんでくるといいわ」

 本当は千春の伯父に会うことを話したかった。しかし、千春がああ言うということは本当に合格の確率が低いのだろう。

 わたしは母親に似ていると思う。だからこそ、顔立ちが整っていると言われても地味な印象をぬぐえないでいた。

 台所まで来た母親が水を飲もうとしたのを制し、わたしが水を汲む。そして、彼女に手渡した。

 母親は「ありがとう」というとお水を受け取り、口に含んだ。

「仕事きついの?」
「そんなことないわよ」

 彼女は絶対にきついとかしんどいとは言わないのだ。そう弱音を吐くことでわたしに負担をかけさせたくないと分かっているのだろう。わたしがお店を手伝おうとしても、彼女は気にしなくていいといい、一人で切り盛りしているのだ。

 わたしには父親はいない。だが、自分を不幸だと思ったこともなかった。

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