さよなら、もう一人のわたし
 それは母親の存在があまりに大きい。

 母親がわたしを身ごもったのは二十一歳のときだ。父親のことは彼女以外誰も知らないのだ。わたしの祖父母にも口を割らなかったらしい。祖父母も母親も生まれたわたしを可愛がってくれた。

 だが、大学生だった彼女が妊娠したと分かったとき、それも親が誰だか母親しか分からない子供を身ごもったときはわたしの祖父母は産むのをやめさせようとしたのかもしれない。

わたしが祖父母の立場だったら、実際に中絶させるかは分からないけれど、やっぱりそのことが頭を過ぎるに違いないだろう。地元の国立大に進み、人生がこれからというときの妊娠なのだ。

 わたしの祖父母はわたしに甘かった。それはその分の負い目があるからからなにかもしれなかったのだ。
 もしそうだったとしたら、母親がわたしを全力で守ってくれたのだろう。わたしの母親が彼女でなかったら、わたしはこの世にいなかったのかもしれない。

 祖父母は田舎で暮らしている。元々祖母の実家がある地に戻っているのだ。お店を売り、実家に一緒に帰るという選択肢も一時出ていた。そっちで暮らしたほうが生活も楽に決まっている。だが、母親が身を粉にして働いてまでここに留まってくれているのはわたしのためなのかもしれない。

 大学は選択肢が多いほうが何かと便利だからだ。
< 47 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop