さよなら、もう一人のわたし
「いや、緊張しているみたいだったから」

 だからといってほとんど面識のない子の頬をつねるのはどうかと思うのだけど。
 つねられたよりも顔を触られたことを意識して、胸が高鳴った。

 何を考えているのだろう。
 わたしは尚志さんが来てからの胸の高鳴りを忘れようと努めた。

「伯父は変な人だけど、怖い人じゃない。緊張しなくていいよ」
「でも厳しい人らしいと千春から聞きました」
「映画のことは聞いたんだよね?」

 わたしは頷く。

「伯父は千春にぞっこんだからね。その彼女が気に入ったと聞けば、いい印象は持っていると思うよ」

 その伯父に会ったこともないのにも関わらず、想像できるのがすごい。
 彼女の持っている資質のようなものだろうか。
 伯父も千春のお父さんと同じように魅入られてしまったのかもしれない。

 わたしたちは駅に行くと電車を乗り継ぎ、彼の指定した駅で降りる。
 その駅は人気が少なく、ほっと胸を撫で下ろした。

「人ごみが苦手?」
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