さよなら、もう一人のわたし
 わたしは頷いた。

「俺もそうだから気持ちも分からなくはないけど、仕方ないよな。ここから少しだから歩いていこうか」

 その言葉に頷き、あまり見慣れない町を見渡す。すると、その視界に軒並みの低い建物が並ぶ中に、目立つ縦に長い建物が視界に入った。

「行くよ」

 わたしはそのビルから目を離すと、信号を渡った尚志さんについていくことにした。

「事務所ってどんなところですか?」

 千春の話によると伯父さんの事務所のすぐ隣に千春が言っていた兄の運営する事務所があるらしい。ついでにそこを覗かせてくれるらしい。

 わたしはどんな返事が返ってくるか期待しながら、想像を膨らませる。

「開店休業状態」

 予想もしていなかった言葉に首をかしげる。

「伯父が映画を撮るときだけ人を集めるように使う感じだから、普段はすることもないんだよな。電話は大抵は伯父が取るし、取れないときは俺の携帯に転送しておけば問題ないし」

「そういえば大学生でしたよね?」
「そうだよ。人を雇う必要もないから便宜上俺がなっているだけだからね。本当は伯父が運営すべきだとは思っているんだけどな」

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