さよなら、もう一人のわたし
 木霊する足音がわたしの不安な心をかきたてる。

 二階に行くと、辺りを見渡した。部屋がいくつかあるが明かりがほとんどついていない。ついているのは奥にある部屋だけだ。廊下には段ボールが乱雑に並んでいて、人気がない。

「ここって他に誰か借りていたりとかしないんですか?」
「しないよ。でも掃除は行き届いているだろう?」

「そうですね。でも、税金とか大丈夫なのかな」
「まあ、持ち主の好きなようにさせるのが一番だしね。だからこそ愛着があるし、掃除もこまめにしているからね」

 尚志さんは苦笑いを浮かべていた。まるでその持ち主をよく知っているかのような。

「知り合いのビルなんですか?」
「知り合いというか、伯父が持ち主だと思う。俺もよくわからないけど、父親が土地を持っていてビルを建てたとかなんとか」

「持ちビルなの?」
「まあ、そうだろうな。でも昔から持っていた土地らしいし、今は人にも貸し出していないんだ。だから、実質伯父の住まいのようなものだよ」

 わたしの想像を絶する答えが返ってきた。
 わたしの家とは全く違う状況に、現実味のない空想話を聞いているような心境だった。
 一つの家で、ビルの廊下は家の廊下のようなものだろう。そう思えば思うほど、今の現状がとても不思議だ。
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